私が嫁いだのは、この地域では有名な旧家。
いわゆる、山をいくつも持っており、土地の権力者だった。
最初にそのうちに入ったとき、あまりにも広い敷地とお屋敷に驚いたものだ。
ここの若奥様に私がなれるのだと思うと、信じられない。
そう、友人の誰もがうらやむ玉の輿話である。
今考えれば、なぜ私がこのうちに嫁げたのかも疑問を持つべきだったのかもしれない。
あまりにも私の育った環境と相違していたのだから。


私たちの結婚式は盛大だった。
夫になる男性は、おとなしく私にはとても優しい人のように見えたのだ。

(この人についていけるのなら、間違いないわ)

父はなれない紋付袴でいろんな人にぺこぺこお酌してまわっていた。
少しだけ、そのみすぼらしい父を見て、はじめて“恥ずかしい”と思った。
もしかしてそんなことを思ったから、神様が私に天罰をくだしたのかも知れない。


式の夜、
そう、私たちの初夜。
夫に身を預けるつもりで覚悟していた。
私は小さい頃から母に言われたとおり、夫になる人に操を捧げるつもりで、ずっと守っていたから。

こんな優しい夫でよかった。
私は今まで処女を守ってきて良かったと心から思えた。

夫が部屋に入ってきた。
しかし、先ほどまであれだけ優しかった夫は、無言で背中を向けて寝てしまったのだ。
私は唖然とし、夫の背中を見ながらぐっと涙をこらえた。
きっと疲れているのよ。
明日になればきっと優しい夫に戻ってくれるわ。
何とか自分に言い聞かせ、しぶしぶ目を閉じ、眠りについた。

しかし、翌日も翌々日も二人きりになると、夫は別人のようによそよそしくなり、私を孤独にさせた。
彼が求めていたから結婚したと思っていたのに・・・。
なぜ私を愛してくれないの・・・。